この記事は、Tech.Decoded に公開されている「Gaining Performance Insights Using the Intel® Advisor Python* API」(https://techdecoded.intel.io/resources/gaining-performance-insights-using-the-intel-advisor-python-api) の日本語参考訳です。
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コードのチューニング方法を決定する適切なデータの取得
インテル コーポレーション、テクニカル・コンサルティング・エンジニア、Kevin O’Leary
インテル コーポレーション、シニア・ソフトウェア・デベロッパー、Egor Kazachkov
優れたデザインの決定には適切なデータが必要です。
- 最初にどのループをスレッド化およびベクトル化すべきか?
- 労力に見合うパフォーマンスの向上が得られるか?
- コア数が増えるとスレッド・パフォーマンスはスケーリングするか?
- このループにベクトル化を妨げる依存性があるか?
- トリップカウントとメモリー・アクセス・パターンは?
- 最新のインテル® アドバンスト・ベクトル・エクステンション 512 (インテル® AVX-512) 命令を使用して効率的なベクトル化を行っているか? それとも古い SIMD 命令を使用しているか?
インテル® Advisor は、モダンなコードの構築と最適化を支援するインテルの包括的なツールスイート、インテル® Parallel Studio XE に含まれる動的解析ツールです。インテル® Advisor を使用すると、上記の質問の答えを得ることができます。アプリケーションのベクトル化およびメモリー・プロファイルに関する詳細なプログラムメトリックを収集できます。GUI やコマンドラインを使用してカスタマイズされたレポートを提供する従来の機能に加えて、Python* を使用して収集したデータベースから強力な新しいレポートを作成する機能が追加されました。
インテル® Advisor を実行すると、収集したすべてのデータは Python* API を使用してアクセスできる専用のデータベースに格納されます。この API を使用することにより、柔軟な方法でプログラムメトリックに関するカスタマイズされたレポートを生成できます。この記事では、この新しい機能の使用方法を説明します。
はじめに
最初に、インテル® Advisor 環境をセットアップします。(この記事では、スクリプトをすべて Linux* で実行しましたが、インテル® Advisor Python* API は Windows* もサポートしています。)
source advixe-vars.sh
次に、収集を行ってインテル® Advisor データをセットアップします。一部のプログラムメトリックは、トリップカウント、メモリー・アクセス・パターン、依存性などの追加の解析が必要です。
advixe-cl --collect survey --project-dir ./your_project -- <your-executable-with-parameters> advixe-cl --collect tripcounts -flops-and-masks -callstack-flops --project-dir ./your_project -- <your-executable-with-parameters>
マップまたは依存性収集を行う場合は、解析するループを指定します。この情報は、インテル® Advisor GUI またはコマンドライン・レポートを使用して入手できます。
advixe-cl --collect map –mark-up-list=1,2,3,4 --project-dir ./your_project -- <your-executable-with-parameters> advixe-cl --collect dependencies –mark-up-list=1,2,3,4 --project-dir ./your_project -- <your-executable-with-parameters>
最後に、インテル® Advisor の参考例をテスト領域にコピーします。
cp -r /opt/intel/advisor_2018/pythonapi/examples .
この記事のスクリプトはすべて、インテル® Advisor Linux* 版に同梱されている Python* を使用して実行しました。標準の Python* ディストリビューションでも同様に動作するはずです。
インテル® Advisor Python* API
ここで提供した参考例は、この柔軟な方法を使用してプログラムデータにアクセスする小さなセットのレポートです。利用可能なフィールドのリストは columns.py を使用して取得できます。例えば、基本的な調査メトリックを実行すると、表 1 のメトリックが表示されます。
表 1. サンプル調査メトリック
インテル® Advisor Python* API の使用例
インテル® Advisor Python* API を使用して強力なメトリックを収集する方法を説明する単純な例から始めましょう。最初に、インテル® Advisor ライブラリー・パッケージをインポートします。
import advisor
収集した結果を含むインテル® Advisor プロジェクトを開きます。
project = advisor.open_project(sys.argv[1])
または、プロジェクトを作成して収集を実行します。(次の例では、open_project を実行しています。)この例では、メモリー・アクセス・パターン (MAP) 収集のデータにアクセスします。次のコード行を使用します。
data = project.load(advisor.MAP)
このデータをロードしたら、ループしてキャッシュ使用率の統計を収集します。次に、収集したデータを出力します。
import sys try: # First import the Advisor library import advisor except ImportError: sys.exit(1) # Open your Advisor project project = advisor.open_project(sys.argv[1]) # Load the Memory Access Pattern(MAP) data data = project.load(advisor.MAP) #Loop through the MAP data and gather information about cache utilization for site in data.map: site_id = site['site_id'] cachesim = data.get_cachesim_info(site_id) print(indent * 2 + 'Average utilization'.ljust(width) + ' = {:.2f}%'.format(cachesim.utilization))
インテル® Advisor Python* API の高度な機能
インテル® Advisor Python* API の一部として提供される例は、独自のスクリプトを記述する参考になります。表 2 は、これらの高度な機能の一部です。
表 2. インテル® Advisor Python* API の高度な機能
いくつかの例を次に示します。例のリストは定期的に追加されています。
収集したすべてのデータを表示するレポートを生成します。
project = advisor.create_project(project_dir)
html レポートを生成します。
advixe-python to_html.py ./your_project
ルーフライン HTML グラフ (図 1) を作成します。
python roofline.py ./your_project
roofline.py スクリプトは、advixe-python ではなく、外部 Python* コマンドで実行する必要があります。現在は、Linux* でのみ動作します。追加のライブラリー (NumPy*、pandas、matplotlib) をインストールする必要もあります。キャッシュ・シミュレーション統計を生成します。
advixe-python cache.py ./your_project
図 1 – ルーフライン HTML グラフ
キャッシュモデルから取得した結果を表 3 に示します。
表 3. キャッシュモデルの結果
ケーススタディー: ベクトル化の比較
このケーススタディーでは、異なるコンパイラー・オプションを使用してコンパイルしたときに指定されたループのベクトル化を比較する Python* スクリプトを作成します。
ステップ 1: 異なる最適化オプションを使用してコードをコンパイルする
最初に、異なるオプションを指定してコードをコンパイルします。この例ではインテル® C++ コンパイラー を使用しています (インテル® Advisor はバイナリーレベルで動作するため、任意のコンパイラーを使用できます)。最初のケースは、コンパイラー・オプション -O0 を使用して最適化なしでコンパイルしています。2 つ目のケースは、オプション -O3 を使用して最適化を行っています。
icc loops1.cpp -O0 -g -debug inline-debug-info -qopt-report=5 -ipo- -o loops1-no-opt icc loops1.cpp -O3 -g -debug inline-debug-info -qopt-report=5 -ipo- -o loops1
ステップ 2: Python* コード
スクリプトは非常に単純です。最初に、コマンドラインからいくつかの引数を取得します。引数がインテル® Advisor プロジェクトに渡されている場合は、プロジェクトに含まれていたデータを使用します。そうでない場合は、インテル® Advisor の調査を実行します。調査の実行が完了したら、ループのアセンブリーをデコードして、2 つのループの命令を並べて出力します。Python* コードのメイン関数は get_formatted_asm です。この関数は、インテル® Advisor データベースにアクセスしてループのアセンブリーをデコードします。アセンブリー・コードがベクトル命令を使用しているかどうか、ループがどの程度速く実行されているかもチェックします。
import sys import itertools import advisor # second form allows collecting data before analysis # first form just analyses already collected data if len(sys.argv) < 3 or len(sys.argv) > 6: print(''' Usage: advixe-python {} path_to_project_dir loop1 [loop2] Or: advixe-python {} path_to_project_dir loop1 [loop2] executable1 executable2 Where loop1 and loop2 are in the form source:line '''.format(__file__, __file__)) sys.exit(1) project_dir = sys.argv[1] project_dir1 = project_dir + ".1" project_dir2 = project_dir + ".2" loop1 = sys.argv[2] # if we have an odd number of arguments (including script name) then loop2 is the same as loop1 loop2 = sys.argv[3] if len(sys.argv)%2 == 0 else loop1 binary1 = '' binary2 = '' # in the second form two last args are executables to run if 4 < len(sys.argv) < 7: binary1 = sys.argv[-2] binary2 = sys.argv[-1] # try open or create project, run collection if needed: # returns formatted asm listing with vectorized instructions marked with "VEC " for given loop def get_formatted_asm(project_dir, binary, loop): asm = [] try: project = advisor.open_project(project_dir) except: project = advisor.create_project(project_dir) if binary: project.collect(advisor.SURVEY, binary) data = project.load(advisor.SURVEY) for entry in data.bottomup: if loop in entry['function_call_sites_and_loops']: asm += ["{:54.54} ".format(entry['function_call_sites_and_loops']), "{:54.54} ".format("Self time: " + entry['self_time']), " "*54] for instruction in entry.assembly: isVectorized = "VEC" if "VECTORIZED" in instruction['instruction_type'] else "" asm.append("{:4.4}{:50.50} ".format(isVectorized, instruction['asm'])) asm.append("") return asm asm1 = get_formatted_asm(project_dir1, binary1, loop1) asm2 = get_formatted_asm(project_dir2, binary2, loop2) # print alongside asm listings for comparison for (a1,a2) in itertools.izip_longest(asm1, asm2, fillvalue = ' '*40): print("{}{}".format(a1,a2))
ステップ 3: Python* スクリプトを実行する
advixe-python compare_asm.py /home/work/projects/loops-compare loops1.cpp:34 /home/work/tests/loops/loops1-no-opt /home/work/tests/loops/loops1
[loop in main at loops1.cpp:34] Self time: 45.5463 Block 1 movl -0xbc(%rbp), %eax movsxd %eax, %rax imul $0x8, %rax, %rax addq -0x88(%rbp), %rax movl -0xac(%rbp), %edx imull -0xac(%rbp), %edx mov $0x1, %ecx addl -0xac(%rbp), %ecx movq %rax, -0x28(%rbp) mov %edx, %eax cdq idiv %ecx cvtsi2sd %eax, %xmm0 movl -0xc0(%rbp), %eax cvtsi2sd %eax, %xmm1 movsdq 0x555(%rip), %xmm2 divsd %xmm2, %xmm1 addsd %xmm1, %xmm0 movq -0x28(%rbp), %rax movsdq (%rax), %xmm1 subsd %xmm0, %xmm1 movl -0xbc(%rbp), %eax movsxd %eax, %rax imul $0x8, %rax, %rax addq -0x88(%rbp), %rax movsdq %xmm1, (%rax) mov $0x1, %eax addl -0xac(%rbp), %eax movl %eax, -0xac(%rbp) movl -0xac(%rbp), %eax cmp $0x64, %eax jl 0x401020 <Block 1>
[loop in main at loops1.cpp:34] Self time: 4.62404 Block 1 VEC movdqa %xmm11, %xmm2 VEC movdqa %xmm11, %xmm0 VEC psrlq $0x20, %xmm2 VEC movdqa %xmm10, %xmm1 VEC pmuludq %xmm2, %xmm2 VEC pmuludq %xmm11, %xmm0 VEC psllq $0x20, %xmm2 VEC pand %xmm13, %xmm0 VEC por %xmm2, %xmm0 callq 0x401770 <__svml_idiv4> Block 2 VEC cvtdq2pd %xmm0, %xmm2 VEC punpckhqdq %xmm0, %xmm0 add $0x4, %r15b VEC cvtdq2pd %xmm0, %xmm3 VEC addpd %xmm14, %xmm2 VEC addpd %xmm14, %xmm3 VEC subpd %xmm2, %xmm12 VEC subpd %xmm3, %xmm8 VEC paddd %xmm15, %xmm11 VEC paddd %xmm15, %xmm10 cmp $0x64, %r15b jb 0x401397 <Block 1>
ステップ 4: オプション -AVX2 を追加して再コンパイルする
もう少し最適化してみましょう。プロセッサーはインテル® AVX2 命令セットをサポートしているため、AVX2 向けのコードを生成するようにコンパイラーに指示します。(コンパイラーはデフォルトでこのコードを生成しないことに注意してください。)
icc loops1.cpp -O3 -xCORE-AVX2 -g -debug inline-debug-info -qopt-report=5 -ipo- -o loops1-avx2
ステップ 5: 比較を再実行する
advixe-python compare_asm.py /home/work/projects/loops-compare-opt loops1.cpp:34 /home/work/tests/loops/loops1 /home/work/tests/loops/loops1-avx2
[loop in main at loops1.cpp:34] Self time: 4.81401 Block 1 VEC movdqa %xmm11, %xmm2 VEC movdqa %xmm11, %xmm0 VEC psrlq $0x20, %xmm2 VEC movdqa %xmm10, %xmm1 VEC pmuludq %xmm2, %xmm2 VEC pmuludq %xmm11, %xmm0 VEC psllq $0x20, %xmm2 VEC pand %xmm13, %xmm0 VEC por %xmm2, %xmm0 callq 0x401770 <__svml_idiv4> Block 2 VEC cvtdq2pd %xmm0, %xmm2 VEC punpckhqdq %xmm0, %xmm0 add $0x4, %r15b VEC cvtdq2pd %xmm0, %xmm3 cmp $0x60, %r15b VEC addpd %xmm14, %xmm2 jb 0x4015a9 VEC addpd %xmm14, %xmm3 VEC subpd %xmm2, %xmm12 VEC subpd %xmm3, %xmm8 VEC paddd %xmm15, %xmm11 VEC paddd %xmm15, %xmm10 cmp $0x64, %r15b jb 0x401397 <Block 1>
[loop in main at loops1.cpp:34] Self time: 1.97998 Block 1 VEC vpmulld %ymm15, %ymm15, %ymm0 VEC vmovdqa %ymm14, %ymm1 callq 0x4018 f0<__svml_idiv8> Block 2 add $0x8, %r15b VEC vextracti128 $0x1, %ymm0, %xmm2 VEC vcvtdq2pd %xmm0, %ymm3 VEC vpaddd %ymm13, %ymm15, %ymm15 VEC vcvtdq2pd %xmm2, %ymm5 VEC vpaddd %ymm13, %ymm14, %ymm14 VEC vaddpd %ymm3, %ymm10, %ymm4 VEC vaddpd %ymm5, %ymm10, %ymm6 VEC vsubpd %ymm4, %ymm8, %ymm8 VEC vsubpd %ymm6, %ymm9, %ymm9 cmp $0x60, %r15b jb 0x4015a9 <Block 1>
アセンブリー・コードで XMM の代わりにベクトル長が 2 倍の YMM レジスターが使用され、スピードが 2 倍になりました。
結果
最適化および最新のベクトル命令セットを使用したことにより、実行時間は大幅に短縮されました。
- 最適化なし (-O0): 45.148 秒
- 最適化 (-O3): 4.403 秒
- 最適化およびベクトル化 (-O3 -AVX2): 2.056 秒
システム・パフォーマンスの最大化
最近のプロセッサーのパフォーマンスを最大限に引き出すには、ソフトウェアをベクトル化およびスレッド化することが重要です。インテル® Parallel Studio XE の新しいインテル® Advisor Python* API は、システムのパフォーマンスを最大限に引き出すために役立つプログラム統計とレポートを生成する強力な方法を提供します。この記事で説明した例は、この新しいインターフェイスの能力を示しています。各自のニーズに基づいて、これらの例は調整および拡張できます。インテルでは、インテル® Advisor Python* API についてのフィードバックを受け付けています。ご意見、フィードバックは、mvector_advisor@intel.com までメール (英語) でご連絡ください。
性能に関するテストに使用されるソフトウェアとワークロードは、性能がインテル® マイクロプロセッサー用に最適化されていることがあります。SYSmark* や MobileMark* などの性能テストは、特定のコンピューター・システム、コンポーネント、ソフトウェア、操作、機能に基づいて行ったものです。結果はこれらの要因によって異なります。製品の購入を検討される場合は、他の製品と組み合わせた場合の本製品の性能など、ほかの情報や性能テストも参考にして、パフォーマンスを総合的に評価することをお勧めします。詳細については、http://www.intel.com/performance (英語) を参照してください。
インテル® コンパイラーでは、インテル® マイクロプロセッサーに限定されない最適化に関して、他社製マイクロプロセッサー用に同等の最適化を行えないことがあります。これには、インテル® ストリーミング SIMD 拡張命令 2、インテル® ストリーミング SIMD 拡張命令 3、インテル® ストリーミング SIMD 拡張命令 3 補足命令などの最適化が該当します。インテルは、他社製マイクロプロセッサーに関して、いかなる最適化の利用、機能、または効果も保証いたしません。本製品のマイクロプロセッサー依存の最適化は、インテル® マイクロプロセッサーでの使用を前提としています。インテル® マイクロアーキテクチャーに限定されない最適化のなかにも、インテル® マイクロプロセッサー用のものがあります。この注意事項で言及した命令セットの詳細については、該当する製品のユーザー・リファレンス・ガイドを参照してください。
#DataScience (英語)
コンパイラーの最適化に関する詳細は、最適化に関する注意事項を参照してください。