インテル-HPEアライアンス: HPC分野で新たな革新が始まった

HPC

2015年7月、インテルとヒューレット・パッカード エンタープライズ(HPE)は、HPC分野におけるアライアンス強化を発表した。急速に拡大するエンタープライズ・ビッグデータ市場を見据えて、両社の協力は製品開発レベルから、市場・顧客へのアプローチまで大きく拡大することになった。インテル最新のテクノロジーとそれを採用したHPEサーバー製品も次々と登場している。インテルと日本ヒューレット・パッカードのキーパーソンによる対談をシリーズでお届けしよう。

インテル株式会社
アジア・パシフィック・ジャパン
インフルエンサー・ソリューションズ・グループ
HPC担当ディレクター
根岸 史季 氏
日本ヒューレット・パッカード株式会社
サーバー製品統括本部
スケールアウト・サーバー製品部
岡野家和

– 今回の「HPC分野でのアライアンス強化」のポイントをお聞かせください

岡野 HPEでは、HPCとビッグデータ分野のソリューション強化に取り組んでいます。2014年後半にはHPCとビッグデータに特化したグローバル事業部を新設し、拡大するお客様ニーズによりスピード感を持ってお応えする体制を整えました。インテルとのHPCアライアンス強化はこの一環であり、非常に重要な意味を持つものです。

HPEは、HPC分野を含め最新のインテル® Xeon® プロセッサーをいち早く採用したサーバー製品を提供してきましたが、今回のアライアンスでは「HPCサーバー製品の開発レベル」から「HPCソリューションの提供」まで協業範囲を大きく拡大しました。

根岸氏 私たちも、HPCユーザーの裾野の広がりに注目してきました。これまでHPC市場の多くを学術系・公共系のシステムが占めてきましたが、エンタープライズ系のビッグデータ市場はこれを上回る勢いで伸長しています。

インテルでは、HPC分野における戦略を「Scalable System Framework」に基づいて推進しています。これは、コンピュート、ファブリック、メモリ/ストレージ、ソフトウェア全体で最適化を進め、HPCシステムのトータルパフォーマンスを劇的に向上させるための取り組みです。

インテルとHPEとの協力関係は、まさに新しい段階に入ったと言えるでしょう。最新のインテル® Xeon® プロセッサー/インテル® Xeon Phi™コプロセッサーに加え、次世代のファブリック技術である「インテル® Omni-Path」、不揮発性メモリを採用した高速ストレージ、高性能な並列ファイルシステムを実現する「インテル® Enterprise Edition for Lustreソフトウェア」など、インテルの最新テクノロジーにおいて全面的に協力します。

岡野 そうですね。HPEでは、インテルの協力を得て最新のHPCシステム技術検証センター「Center of Excellence」を仏グルノーブルと米ヒューストンに構築しました。日本からもリモートで利用可能で、すでに「インテル® Omni-Path」「インテル® Enterprise Edition for Lustreソフトウェア」をはじめとする最新テクノロジーを検証いただけます。このセンターを軸に、インテルとHPEの技術者が、お客様アプリケーションのパフォーマンス検証やチューニング、並列処理コードの最適化などを行います。同時に国内でのベンチマーク環境も強化しています。

HPEはISVとの連携も強化しています。すでに、北米では複数の学術系スパコン案件の獲得にもつながっています。いかに高速なHPCシステムを実現するかというテーマは重要ですが、私たちは、いかにお客様の求めるビジネス価値をHPCシステムで実現するか、というアプローチに軸足を移しました。製品力で差別化を図るだけでなく、お客様価値で競争優位を獲得することを目指します。

– インテルの「Scalable System Framework」をご紹介いただけますか。

根岸氏 私たちはかねてから大きな問題認識を持っていました。インテル® Xeon® プロセッサーは、「ムーアの法則」に基づいて着実に理論性能向上を果たしています。これに対して、ネットワークやストレージの理論性能はCPUほど上がらず、ギャップは広がるばかりです。計算処理のボトルネックが生まれシステム全体の性能を劇的に向上させることが難しい、という状況が長く続いています。CPU、ネットワーク、ストレージ、それぞれの開発ベンダーが個別に最高性能を追求していては現状を打破できないことは明らかです。

岡野 誰かが強力なリーダーシップをもって「システム全体の性能を高める取り組み」を行わないことには解決できないと。それを具体化するための指針が「Scalable System Framework」なのですね。

根岸氏 はい、その通りです。もうひとつ、ビッグデータ解析やディープラーニングなど、エンタープライズ系のお客様のニーズに応えるという大きな目的があります。大学や研究機関など高度なスキルを持ったユーザーだけでなく、企業での営業やマーケティング部門へユーザーの裾野が広がっています。こうしたお客様の要求は「すぐに使えるHPCシステムが欲しい」であって、「時間をかけてHPCシステムの性能を追求したい」わけではありません。

この課題を解決するには、パッケージ化されたソリューションが有効です。インテルは、コンピュート、ファブリック、メモリ/ストレージ、ソフトウェアを、HPCシステム全体の視点で再構築しようと考えました。

岡野 「システム全体で」という視点に共通性を感じます。HPEとしても、サーバーという枠を超えて、お客様へ「ソリューションとして」システム提案が行えるようなポートフォリオ強化に取り組んでいます。この点でもインテルとの協力をいっそう強化しており、よりお客様に近い目線で課題解決に取り組むために、技術検証センター「Center of Excellence」も積極的に活用していく考えです。

インテルが、CPUを中核にファブリックやストレージまでを統合するシステムアプローチに立つなら、これをお客様のビジネス目標や成果に結びつけるのがHPEとしての大きなチャレンジになります。

– HPEのHPC分野におけるサーバー戦略をご紹介ください。

岡野 世界のHPCサーバー市場における出荷額でHPEは第1位、35.9%*1の市場シェアを獲得しており、おかげさまでHPEはリーダーポジションを確立しています。戦略としては、HPCおよびビッグデータに特化したサーバー製品「HPE Apollo System」のラインアップ強化を継続的に進めていきます。最高レベルのパフォーマンス、スケーラビリティ、効率性を追求しています。

*1:IDC Link “HPC Market Leader Takes Aim at Big Compute–Big Data Convergence” 2016/4/4

これに加えて、先程触れた「ソリューションとして」という観点で大きな投資をしています。最新のインテル® Xeon® プロセッサー/インテル® Xeon Phi™コプロセッサーの採用はもちろんですが、次世代のファブリック技術「インテル® Omni-Path」、不揮発性メモリによる高速ストレージ、高性能並列ファイルシステム「インテル® Enterprise Edition for Lustreソフトウェア」への対応・実装も着実に進めていきます。つい先日、2016年4月に「インテル® Enterprise Edition for Lustreソフトウェア」に最適化された高密度サーバー「HPE Apollo 4520 System」の出荷を開始したばかりです。Omni-PathのHPE製品としてのリリースも予定されています。

根岸氏 HPC向けに新たに開発した「インテル® Omni-Path」は、長らくこの分野を支配してきたInfiniBandを置き換えるファブリックテクノロジーです。インテル自身もInfiniBand製品を提供していますが、PCIの後継となるべきテクノロジーとして生まれたInfiniBandにはHPC用ファブリックとして利用するには技術的な限界が近づいていると考えています。また、先述のシステムのボトルネックの一つとして、ファブリックの性能がPCIよりも早く向上し将来的にPCIがボトルネックになりつつありました。そのため、ただ早いInfiniBandを出すのではなく、ボトルネックと向き合うと同時に最初からHPC用ファブリックを意識した製品の開発をすることにしました。「インテル® Omni-Path」では、100Gbpsの帯域を提供し、特に中~大規模クラスタでのファブリックのレイテンシ低減に威力を発揮します。

– HPCシステムの性能向上の障壁は、完全に取り除かれたと言えますか。

岡野 いいえ、まだいくつかの課題を残しています。たとえば、ストレージ環境のパフォーマンスはSSDの大容量化によって大きく改善されつつありますが、ボトルネックが解消されたとは言えません。

根岸氏 その通りですね。HDDとSSDのレイテンシの性能差は100倍程度ですが、SSDとメモリの差は1,000倍以上あります。インテルでは、このギャップを埋めるために「3D XPoint方式の不揮発性メモリ素子」をMicron社と共同開発しました。このテクノロジーを採用した最初のPCIeに挿すタイプSSD製品「Intel Optane」は、NAND方式のSSDを5~7倍上回る性能を発揮します。また、開発中のDIMMスロットに挿すタイプの製品ではNAND方式SSDの1,000倍の性能を目指しています。

また、次世代インテル® Xeon Phi™ プロセッサー(コードネーム:Knights Landing)は、プロセッサーコア、DDR4の5倍のメモリバンド幅を備えた次世代メモリを搭載しDDRメモリとNAND型SSDの間のギャップだけでなく、DDRメモリとCPUキャッシュの間のギャップも埋めます。また、インテル® Omni-Pathインターフェースをパッケージ化したモデルも登場し、1ソケットで最大3TFLOPS以上という演算性能を発揮します。

岡野 大容量の不揮発性メモリは、ストレージの常識を変える大きな可能性を秘めています。ディスク-メモリ-キャッシュ間のコンポーネントを細分化して、それぞれの性能のギャップを埋めていくアプローチは大きな効果が期待できますね。

根岸氏 インテルでは、HPCシステム全体での最適化を指向し、究極的にはCPUからデータストアのファイルシステムまで、ボトルネックが完全に解消されたシステムを目指しています。テラバイト/ペタバイトクラスの巨大なファイルをHPC環境で扱うには、ファイルシステムの並列化、いっそうの高速化が必須です。

岡野 そのためにOSSの並列ファイルシステム「Lustre」も、インテル製品としてサポートしていく方針を打ち出したわけですね。「インテル® Enterprise Edition for Lustreソフトウェア」に最適化された高密度サーバー「HPE Apollo 4520 System」も、強化されたインテル-HPEアライアンスの一環です。

– インテルとHPEの協力は、今後どのように発展していくでしょうか。

岡野 インテルは世界最大の半導体メーカーであり、大規模なシステムを自ら運用するユーザーでもあります。半導体設計(EDA)というインテルの本業を支えるため、スペースあたりパフォーマンス、電力あたりパフォーマンスの強化に特化した新しい形状のサーバー製品を、両社が緊密に協力して開発しました。この製品は、後に「HPE Apollo 6000」として世に出ました。

根岸氏 重要なパートナーとして、サーバーユーザーとして関係を深める中、最も重要なのはテクノロジーリーダーとしてサーバー市場を共に牽引していく協力体制だと思っています。インテルとHPEの関係は、優れた製品を提供ために協力するのだけでなく、顧客価値や成果を追求するものに変わってきたと実感しています。お客様業界ごとのニーズを細かく分析し、最適化された製品を開発し、両社が協力してソリューションを提供するモデルへの変革です。

岡野 インテルの「Scalable System Framework」は、テクノロジー開発のフレームワークであるとともに、パートナー企業様との協業フレームワークでもあります。お客様やHPEからのフィードバックを受けて、製品やテクノロジーの改善もいっそう加速させていきます。HPE Apollo 6000やHPE Apollo 4520のような、協業の成果とも言えるような製品は今後ますます増えていくでしょう。日本での実績もさらに増やしていきたいですね。

根岸氏 本日はありがとうございました。


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HPE Apollo Systemに関する情報はhttp://www.hpe.com/jp/apollosystem

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